WiTricityが「世界を変える7つの技術」の一つに選ばれていました
今年(2009)の3月に開催されたIEEEの125周年行事の記事を見ていたら、以下のような項目がありました。
IEEE Celebrates its 125th Anniversary Presenting Emerging, World Changing Technologies During Its “Embracing Human Technology Interactions” Media Event
http://www.ieee125.org/newsroom/news/2009-03-10-ieee-celebrates-125th-anniversary.html
http://www.ieee.org/about/news/2009/11march.html (2010.12.26リンク切れ修正)
7つの技術の技術については、以下のサイトで簡単に説明されていますが、その中の一つにWiTricityが挙げられていました。
◎世界を変える7つの技術 IEEE125周年で討議
http://prw.kyodonews.jp/open/release.do?r=200903111643
IEEE highlights technologies that will change the world
IEEE: Computing, robotics, education benefit from tighter human-technology interactions (Control Engineering,03/13/2009)
【2009/10/17追記】上記記事のリンクが切れていたので修正しました。
IEEE: Computing, robotics, education benefit from tighter human-technology interactions
Mark T. Hoske, Control Engineering -- Control Engineering, March 13, 2009http://www.controleng.com/article/276630-IEEE_Computing_robotics_education_benefit_from_tighter_human_technology_interactions.php
(2010.12.26リンク切れのため削除)
WiTricityは、以下の記事にあるように、2007年(原理発表は2006年)に実験結果が発表された無線電力伝送技術のようですが、続報を見かけなかったので、どうなったのかと思っていましたが、同年に会社が設立されて、現時点では液晶テレビに無線給電可能なプロトタイプ(WiTricity Prototype System)ができているようです。デモンストレーションの動画もあるので、実際に動作しているようです。
Itmedia News (2007年06月08日 08時06分 更新)
「ワイヤレス充電」実現へ前進――MITが実験に成功
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0706/08/news021.html
BBC News (Last Updated: Thursday, 7 June 2007, 18:00 GMT 19:00 UK)
Wireless energy promise powers up
訳文
http://www.mypress.jp/v2_writers/beep/story/?story_id=1617212
WiTricity Corporation
http://www.witricity.com/
WiTricity Technology: The Basics
(WiTricity Prototype System)
http://www.witricity.com/pages/technology.html
【WiTricityの紹介動画】
witricity Wireless electricity - from BBC (2007年06月09日)
http://www.youtube.com/watch?v=CH6U1eyrsHY&feature=related
Witricity (2009年01月27日)
http://www.youtube.com/watch?v=Bdp9BhSW0cM&hl=ja
Witricity - Strom ohne Kabel (2009年02月26日)http://www.youtube.com/watch?v=-EecVH-V_co&hl=ja
【2009/10/17追記】リンク切れのため削除
このWiTricityのポイントは" Resonant Magnetic Coupling "にあるようですが、IFT等の電磁結合の複同調回路(下記サイト参照)と原理的にどのように違うのよく理解できません。
アナログ電子回路の基礎 著者: 堀桂太郎 出版社: 東京電機大学出版局, 2003
P87 図9.11 複同調増幅回路の例 (a)電磁結合
上記WiTricity Corporationのサイト(http://www.witricity.com/)に書いてある情報だけでは、具体的な構造がよく判りません。このサイトにScientific Papersとして下記の2件の文献が記載されていましたので、これを読んでみることにしました。
(1) Wireless Power Transfer via Strongly Coupled Magnetic Resonances
Science Vol. 317. no. 5834, pp. 83 – 86 June 6, 2007
(2) Efficient wireless non-radiative mid-range energy transfer
Annals of Physics Vol. 323, Issue 1, pp 34 – 48 June 8, 2007
(2)Annals of Physicsの方は原理的な説明が大部分で、あまり面白く無いようだったので、(1)Scienceの方をざっと見てみました。
具体的な構造に関係が有りそうなところをピックアップしてみました。
上記(1)Scienceに記載されている図面(Fig. 1. Schematic of the experimental setup.)に対応すると思われる図面が、公報WO2008118178 (PCT/US2007/070892)のFig.14に記載されていました。また、Texas Power and Light .comに、実験装置の写真がありました。
【WO2008118178 Fig.14】
【WiTricity】
Texas Power and Light .com
http://www.texaspowerandlight.com/p5/witricity.htm
【2010.12.26追記】リンク切れのため削除
・同一形状の二つの自己共振型コイルを使用。
高さh:20 cm
導線直径a:3 mm
半径r:30 cm
巻数n:5.25
導線材質:銅
期待共振周波数:10.56MHz
実測共振周波数:9.90 MHz
推定Q値:~2500
実測Q値:950±50
・一方のコイル(ソースコイル)は発振回路に電磁結合され、他方のコイル(デバイスコイル)は抵抗性負荷に電磁結合。
・駆動回路として、半径25cmの銅線のシングルループを含むコルピッツ(Colpitts)発振器を使用。このシングルループはソースコイルと電磁結合。
・負荷は、ループコイルが接続された電球。
・効率は、各自己共振型コイルの中点に流れる電流を電流プローブで測定して決定。
・駆動回路への入力が400Wの状態で、約2mの距離で60Wの電球が定格の明るさで点灯。壁のACアウトレットから負荷までの総合効率は15%。無線電力伝送自体の効率は40~50%。
・60W/2mの条件で、デバイスコイルから20cmの距離での放射電力は5W以下。
上記の文献を読んで、かなりイメージが湧いてきましたが、まだよく判らないところがあります。
・駆動回路はコルピッツの発振段即出力段の自励発振回路? あるいは、ヤンガーステージ(エキサイタ、励振段)+ファイナルステージ(終段)構成?
・駆動回路はシングルループを含んでおり、このシングルループがソースコイルと電磁結合しているようですが、このシングルループの機能がよく判りません。コルピッツ発振回路の場合には、基本的に共振回路が1個のLと2個のCから構成されますが、このLをシングルループ(ワンターンコイル)で構成した場合には、とても10MHzでは発振しないように思われます。コルピッツ発振回路を構成するL(コイル)の一部をシングルループとして外に出したということであれば、理解できますが・・・。原理図を見るとシングルループが正弦波で駆動されるようになっているのですが、メカニズムがよく判りません。インピーダンスマッチング用?ステップアップ用?
・自己共振型コイルを使用していますが、通常の直径数cmのコイルの場合には5ターン位では10MHzに同調するようには思えませんが、実際に動作しているようなので、直径60cmのコイルではインダクタンスが結構大きくなるのかもしれません。
【参考外部リンク】
自己共振周波数
http://www.koaproducts.com/basic/inductor3.htm
【2010.12.26追記】リンク切れのため削除
http://www.koaproducts.com/basic/inductor.php
・無線電力伝送自体の効率は40~50%ということなので、60Wの電球を点灯させるためには、ソースコイル側で120~150Wの出力が必要になります。駆動回路の効率を50%とすると入力は240~300Wになります。これは、入力300Wの10MHzの送信機にダミーロードとして60Wの電球を接続して動作させているのと同様な状態になると思われるので、外部アンテナは接続されていなくても、この装置が設置された場所の近くでは、10MHz付近の電波は受信不可能になるように思われます。
短波帯の標準周波数報時局では10MHzを使用している局がかなりあるので、BPMやWWVHへの影響がありそうです。また、アマチュア無線でも10MHz帯(10.100MHz~10.150MHz)があるので、影響があるかもしれません。PLC(電力線搬送通信)とは違って信号が正弦波なので、影響がある周波数は限られるのかもしれませんが、出力が桁違いに大きなWiTricityではまた問題になるかもしれません。
初期の資料では、周波数は6.4MHzとなっていたので、今後また変更になる可能性はあるのかもしれません。
BBC News Magazine
A solution to the socket shortage?
Last Updated: Friday, 1 June 2007, 11:43 GMT 12:43 UK
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/magazine/6705313.stm
・WiTricityのデモンストレーションの動画では、ソースコイルが床や壁に設置してありましたが、気づかずにループ状の金属製品(金属製のネックレスなど)を置くと発熱するようなことはないのでしょうかね? 7MHzの出力10Wの送信機でも、ワンターンランプを出力コイルに近づけると、ワンターンコイルが非同調でもランプが点灯します。
WiTricityのInvention Teamの写真では、動作中と思われる実験装置のソースコイルとデバイスコイルの間に人がいますが、出力100Wのソースコイルに発生する電圧はかなり高くなると思われるので、他人事ながら感電しないか心配です。コイルが空中に浮いて電気的にフローティング状態になっているので、普通の共振回路とは状況が異なるのかもしれませんが・・・。出力10Wの送信機でも高周波で感電するとピリッときて、接触した部分に痛みが残ります。なお、実験装置ではコイルが裸状態ですが、WiTricity Prototype Systemではコイルはケースに収納されています。
また、上記WiTricity FAQでは、磁界は生体組織に殆ど影響を与えないという説明になっていますが、出力100Wの送信機の出力コイルの近傍ではかなり電界も高いと思われます。出力10Wの送信機でも出力コイルに蛍光灯を近づけると点灯します。
【参考外部リンク】
無線機の動作確認 - BIGLOBEなんでも相談室
http://soudan1.biglobe.ne.jp/qa1053523.html
回答番号:No.3
以上、文献とサイトの記事をざっと読んで見て感じた点を思いつくままに列記してみましたが、無線電力伝送が実用化されること自体は非常にうれしいことなので、安全性と不要輻射の問題がクリアされるのであれば実用化が進んでほしいです。
【2009/05/07追記】
IntelのWREL(Wireless Resonant Energy Link)は別にしようと思いましたが、あまり量がないので追加にしました。
BBC News
An end to spaghetti power cables
Page last updated at 09:20 GMT, Friday, 22 August 2008 10:20 UK
http://news.bbc.co.uk/2/hi/technology/7575618.stm
Intel CTO: No more power cords
http://www.youtube.com/watch?v=T5kbYjlplKA
チラッと見えるデモを見る限りでは、MITの実験とあまり変わりがないように見えますが、詳細なデータを見ていないのでよく判りません。
Rattner: The promise of wireless power
posted by Justin Rattner on October 02, 2008
http://blogs.intel.com/research/2008/10/rattner_the_promise_of_wireles.php
電界が与える影響についての記述があり、電界を最小化する方法を思索中とのこと。
【2009/05/10追記】関連外部リンクを追加しました。
WiTricityを目指して無謀&危険な実験(AC110V 60Hzを10ターンのコイルに直接印加)をした人の記事がありました。
All About Circuits Forum > Electronics Forums > The Projects Forum
Wireless Electricity Transfer (Witricity help)
http://forum.allaboutcircuits.com/showthread.php?t=22562
Wireless Power Transfer via Strongly Coupled Magnetic Resonancesの筆者の一人であるマリン・ソウリャチーチ(Marin Soljačić)氏のサイト
マスコミへの露出状況
Wireless Power Transfer
http://www.mit.edu/~soljacic/wireless_power.html
(Publicly announced in November 2006)
NTT GROUP MAGAZINE 365°VOL.23, 2009 MARCH
●WORLDWIDE TOPICS
ワイヤレス・送電テクノロジーは、新しい産業革命をもたらす予兆なのだろうか?
http://www.ntt.co.jp/365/04-wwt/index.html
【2009/10/17追記】上記記事のリンクが切れていたので修正しました。
http://www.ntt.co.jp/365/book_data/book_vol23/04-wwt/index.html
【WiTricityに関連すると思われる特許の書誌事項など】
・WO2008118178 (A1) (出典:esp@net)
Publication number: WO2008118178 (A1)
Publication date: 2008-10-02
Inventor(s): KARALIS ARISTEIDIS [US]; KURS ANDRE B [US]; MOFFATT ROBERT [US]; JOANNOPOULOS JOHN D [US]; FISHER PETER H [US]
Applicant(s): MASSACHUSETTS INST TECHNOLOGY [US]; SOLJACIC MARIN [US]; KARALIS ARISTEIDIS [US]; KURS ANDRE B [US]; MOFFATT ROBERT [US]; JOANNOPOULOS JOHN D [US]; FISHER PETER H [US]
Abstract of WO 2008118178 (A1)
Disclosed is an apparatus for use in wireless energy transfer, which includes a first resonator structure configured to transfer energy non-radiatively with a second resonator structure over a distance greater than a characteristic size of the second resonator structure. The non-radiative energy transfer is mediated by a coupling of a resonant field evanescent tail of the first resonator structure and a resonant field evanescent tail of the second resonator structure.
・ 特表2009-501510(出典:特許電子図書館)
(11)【公表番号】特表2009-501510(P2009-501510A)
(43)【公表日】平成21年1月15日(2009.1.15)
(54)【発明の名称】無線非放射型エネルギー転送
(21)【出願番号】特願2008-521453(P2008-521453)
(86)(22)【出願日】平成18年7月5日(2006.7.5)
(86)【国際出願番号】PCT/US2006/026480
(87)【国際公開番号】WO2007/008646
(87)【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
(31)【優先権主張番号】60/698,442
(32)【優先日】平成17年7月12日(2005.7.12)
(33)【優先権主張国】米国(US)
(71)【出願人】
【氏名又は名称】マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー
(72)【発明者】
【氏名】ジョアノプロス、ジョン ディ.
(72)【発明者】
【氏名】カラリス、アリステイディス
(72)【発明者】
【氏名】ソラジャシック、マリン
(57)【要約】
電磁エネルギー転送装置には、外部電源からエネルギーを受け取る第1の共振器構造が含まれる。第1の共振器構造は第1のQ因子を有する。第2の共振器構造は、第1の共振器構造から遠位に位置し、有用な動作電力を外部負荷に供給する。第2の共振器構造は第2のQ因子を有する。2つの共振器間の距離は、各共振器の特徴的なサイズよりも大きくすることができる。第1の共振器構造と第2の共振器構造との間の非放射型エネルギー転送は、それらの共振場エバネッセント・テールの結合を通して成立する。
なお、上記特表2009-501510の公報は、下記の手順で特許電子図書館から入手可能です。
(1)独立行政法人工業所有権情報・研修館のホームページ(下記URL)にアクセス。
http://www.inpit.go.jp/index.html
(2)右欄の「特許電子図書館IPDL」をクリック。
(3)「特許・実用新案検索」のポップアップウィンドウの中の「1.特許・実用新案公報DB」をクリック。
(4)文献種別に「A」を、文献番号に「2009-501510」を入力。
(5)表示形式として「PDF表示」を選択。
(6)「文献番号照会」をクリック。
(7)左欄の「特表2009-501510」をクリック。
(8)右下欄の「文献単位PDF表示」をクリック。
(9)認証画面で認証用番号を入力して送信。
(10)公表特許公報が表示されるので保存。
【2009/10/17追記】
・リンク切れチェック&修正
・参考外部リンク追加
【参考外部リンク】
EE Times Japan 2009/10/05
第2部 中距離送電技術 温故知新の「共鳴方式」
http://www.eetimes.jp/content/3351
・Demo of WiTricity from TEDTalks
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コメント
基本甘くて時に辛いとはどういう味のハーモニーだ!
投稿: isabel marant dicker boot | 2012年4月23日 (月) 17時43分
こちらのBlogを参考にさせていただいて書きました。
よろしければご覧ください。
http://blog.livedoor.jp/neotesla/archives/51426400.html
投稿: Neotesla | 2014年6月21日 (土) 15時44分
Kです。コメントありがとうございます。
ブログを拝見させていただきました。
当方は趣味でアマチュア無線をやっているので、近所で大出力(数100W?)で送信されたら短波(MITの実験は約10MHz)の受信ができなくなるのでないかと心配になって、一寸かじってみた程度なので、原理的な部分はよく理解していません。
ご指摘のように用語の意味や定義が不明確な点は同感です。
特に既存の類似用語(MRI)がある場合は、要注意ですね。
大手の新聞でも誤解していることがあります。
MIT自身は、誤解されやすいことを自覚しているようですが・・・
「エバネッセント」という用語も光学関係で一寸聞いたことがあるだけで、電力伝送の分野でどのような現象を意味しているのかよく理解できません。
Microsoftの資料(http://research.microsoft.com/pubs/70504/tr-2007-143.pdf)に、"Wireless Evanescent Coupling"はRFIDと同じでは? というようなことが書いてありました。
ビジネスが絡む(ネーミングで新規な技術と誤解させる?)と問題が複雑になりそうです。
なお、特許のクレーム解釈については、「明細書はクレームの辞書」とか、「裁判になったら広辞苑」とか言われているようですが、そのうち日本でもマークマンヒアリングのような制度が取り入れられるのかもしれません。
投稿: K | 2014年6月22日 (日) 17時18分