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2014年10月26日 (日)

機内の電子機器使用制限の発端は上側ヘテロダインのFMラジオだったようです

 ネットニュースを見ていたら、以下のような記事がありました。

  web R25
  「旅客機でスマホ一部解禁」の実態
  2014.10.18
  http://r25.yahoo.co.jp/fushigi/wxr_detail/?id=20141018-00038572-r25

 記事の内容に特に新しいところはないようですが、”電波を発する行為は、これまでどおり「不可」となっている”と書いてあります。
 「ブルートゥースは電波ではないのか?」と突っ込みを入れたくなりますが・・・

 記事の中に「そもそも、なぜ今まで飛行機の中では、電子機器の使用が制限されていたのだろうか?」と書かれていたので、素人無銭家の好奇心で機内の電子機器使用制限の発端について少し調べてみました。

 昨年(2013)電子機器利用制限が緩和された米国の資料を見てみました。
 下記の資料には、電子機器利用制限の背景(歴史?)について書いてあります。

  Federal Aviation Administration
  PED ARC FINAL REPORT 09.30.13
  http://www.faa.gov/about/initiatives/ped/media/ped_arc_final_report.pdf

【PED ARC FINAL REPORT抜粋】
Ped_arc_final_report_vor_interferen

 上記PED ARC Reportの2.0 BACKGROUNDの2.1 Overviewによれば、1960年頃の検証でFMラジオからVOR(VHF Omnidirectional Range)への干渉が確認されたので電子機器利用が制限されるようになったようです。

 
 FMラジオからVORへの干渉といっても一寸判りくいですが、以下の資料に簡単な説明がありました。

  Avionics & Portable Electronics: Trouble in the Air?
  http://www.bluecoat.org/reports/Helfrick_96_PED.pdf

 上記URLから抜粋引用
  *************************************
  "One such incident reported interference to a VOR receiver from a portable FM radio. In this case, the local oscillator of the typical FM radio fell directly in the VHF navigation band and was easily verified as being the source of interference."
  *************************************

 FMラジオの局部発振回路からの漏洩信号がVORの信号に干渉したことが報告されています。
 上記資料では両方の周波数の関係がよくわかりませんが、以下の資料にはかなり詳しく説明されています。

  Investigation of interference sources and mechanisms for Eurocontrol:Final Report
  17 December 1997
    https://www.eurocontrol.int/sites/default/files/content/documents/communications/17121997-investigation-of-interference-sources-and-mechanisms.pdf

 Page 64 (71/149) - Page 65 (72/149)に、上側(アッパー)ヘテロダイン方式のFM受信機の局発信号による干渉の説明があります。

 上記URLから抜粋引用
    *************************************
  7.5.5 Interference due to broadcast FM receivers
  Description
  All broadcast FM receivers operate by mixing the incoming received signal with an oscillator to convert the incoming signal to a fixed frequency. The actual demodulation then takes place at this fixed frequency, usually 10.7 MHz. By varying the frequency of the oscillator, the receiver can be tuned. Such a receiver in known as a ‘super-heterodyne’. As an example, a receiver tuned to 107 MHz would mix the incoming signal with an oscillator at 117.7 MHz (ie 107 + 10.7) to produce a resultant at 10.7 MHz. Equally, the oscillator could be tuned to 96.3 MHz (ie 107-10.7). In this example, if the receiver is badly aligned or poorly manufactured the signal could leak from the receiver causing interference to nearby receivers tuned to 117.7 MHz.

  Mechanism
  Direct radiation: For FM broadcast transmitters with frequencies above 107.3 MHz, the oscillator in the receiver falls in the frequency range used by VHF communications (ie above 118 MHz). Whilst one receiver is unlikely to cause a significant problem, the combination of the leakage of signal from a large number of receivers can produce a significant problem. The problem is more marked when received from the air where the receiver is line-of-sight to the large number of receivers.

  (中略)

  This problem has been noted in Austria and the UK. In Austria, the problem occurred in the popular tourist area on the border with Italy, and was at its worst during summer time when a lot of tourists were listening to their radios. Only one channel was affected but note that the affected channel was not always the same and that it could have been worst if more channels were affected. Pilots noticed, and aided the identification of the problem as they were able to
hear music on their communications.

  Resolution
  The problem is particularly difficult to resolve as it is the result of a large number of receivers that have been purchased by the public. One solution would be to insist that FM receivers used oscillator frequencies that were lower than the receive frequency (ie 10.7 MHz lower), but such a solution would require the agreement of all national and international standardisation bodies.
Another solution is to change the frequency of the FM transmitter such that the emissions from the receivers were no longer on the aeronautical frequency (this was the solution employed in Austria). The simplest, but least satisfactory solution is to change the frequency being used for aeronautical communications.
  *************************************

  資料自体は少し古いですが、干渉のメカニズムは同じです。
  バカンスで移動するツーリストが機内で使用するFMラジオが問題になったようです。
 下記の資料によれば、1960年ころには既にFMポータブルラジオが普及していたみたいです。

  Portable AM/FM Radio Buying GuideBy Published by eBay June 9, 2014 .
  http://www.ebay.com/gds/Portable-AM-FM-Radio-Buying-Guide-/10000000177628844/g.html

 上記URLから抜粋引用
  *************************************
  History of the Portable AM/FM Radio
    A portable AM/FM radio is a small radio receiver that uses transistor-based circuits to transmit radio waves. While originally larger in size when they were first developed in 1954, by the 1960s and 1970s, the pocket-sized versions of portable AM/FM radios allowed people to listen to music and talk radio anywhere they went. The last American-made transistor radio or portable AM/FM radio was made in the 1970s. However, companies with branches overseas continue to make and sell portable AM/FM radios. Today, there are a large variety of different types of portable AM/FM radios available to the consumer.
  *************************************

 影響を受けたのは一つのチャンネルのみであったけれども、そのチャンネルが常に同じであるとは限らなかったというのが一寸不思議です。
 飛行機が移動するのに連れて受信可能な局が変わるので、乗客が周波数を変えるから?
 また、通信中に音楽が聞こえたというパイロットの報告も一寸面白いです。
 中波のAM局が混信したとは考えにくいので、強力なFM放送波による混変調? あるいは機内のFMラジオのIFからの漏洩信号? FM成分はスロープ検波でAMに変換された?

 なお、日本の場合は、FM帯域(76-90MHz)のすぐ上側にあるTVのローチャンネル(90-108MHz)へ干渉を防止するために、以下の資料の表2にあるように、一般的には下側ヘテロダイン(局部発振周波数がマイナス側)が採用されていることが多いです。

  ARIB
  FM放送評価用受信機における設計マニュアル
  http://www.arib.or.jp/english/html/overview/doc/4-TR-B11v1_1.pdf
  表2(5ページ)

 各国のFM放送の周波数割り当ては以下のようになっています。

  地上テレビジョン放送のデジタル化に伴う周波数再編に関する諸外国の取組動向
  【参考2】 デジタル転換後の放送用周波数の再編計    
  http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/denpa_riyou/pdf/060425_1_1-6.pdf

 参考2の表を見ると日本のガラパゴス状態がよくわかります。いろいろと複雑な事情があったようです・・・

 上記Eurocontrolの資料では、107 MHzを受信する場合には局発周波数は、受信周波数より10.7MHz(中間周波数)だけ高い117.7 MHzになるという説明になっているので、ヨーロッパのFMラジオは上側ヘテロダインが使用されているようです。
 Eurocontrolの資料にも書いてあるように干渉の原因の一つは上側ヘテロダインなので、下側ヘテロダインに変更することが解決案として提示されていますが、実施は難しそうです。

 世界的にみると、上側ヘテロダインが主流のようですが、これは上側ヘテロダインの方が局発の可変周波数範囲の上端周波数と下端周波数の比が小さいので局部発振回路の設計が楽ということや、上側に他の放送がないことと関係があるのでしょうか?

 現在日本で売られている普通のFMラジオの受信帯域は、76~90MHzと76~108MHzの2種類があるようです。
 アナログTVが放送されていたころは、76~108MHzのものはテレビのローチャネル音声が受信できたのですが、現在はテレビがデジタル化されているので使えません。海外旅行でFMラジオを持って行く人はそれほどいるとは思えないので、ワイドバンドのFMラジオが今でも売られているのが一寸不思議です。AM放送のFM化を予想していた? あるいは、単に設計変更が面倒だっただけ?

 日本の場合は、FM放送バンドの周波数が世界標準よりも低いことと、下側ヘテロダインを採用していることの組み合わせで、昔はVORへの干渉はあまり考える必要はなかったのかもしれませんが、使用するFMラジオによっては、干渉の可能性がゼロではないかもしれません。

 日本で売られているラジオの場合は下側ヘテロダインが多いのですが、法律で決まっている訳ではないので上側の可能性もあります。
 上側か下側の区別は外観や取説ではわかりません。ケースを開けて基板を見ても目視だけでは、判断することは非常に困難と思われます。
 通信用受信機の場合には仕様書にヘテロダインの種類が書かれていることもあるようですが・・・。

 一番簡単な方法は、ほかの受信機で漏洩局発信号を受信してみることです。
 FMラジオの中間周波数は、上記のARIBの資料にもあるように、一般に10.7MHz(10.65MHzなどというトリッキーな周波数もあるようですが)なので、たとえば100MHzを受信している場合には、局部発振回路の発振周波数は、下側ヘテロダインであれば89.3(=100-10.7)MHz、上側ヘテロダインであれば110.7(=100+10.7)MHzとなるはずなので、漏洩局発信号の周波数を他の受信機で確認すればヘテロダインの種別がわかります。
 

 実際に確認してみました。
 周波数の計算が簡単になるようにFMラジオ(FM1:61.8-90.3MHz, FM2:86.1-108.6MHz)の受信周波数は100MHzにしました。
 確認用の受信環境は以下のとおり」です。

  アンテナ:2Fベランダに設置した144/430/800MHz3バンドホイップ
  チューナ:DVB-T+DAB+FM(R820T)
   タブレット:Hyundai T7(rooted)
    SDRアプリ:SDR Touch

【FMラジオで100MHzを受信中】
Fm_radio_leakage_local_osc_signal

 Hyundai T7に入れたSDR Touchで受信してみると、110.7MHz付近で結構強い信号があります。
 これのようですが、念のために下側ヘテロダインの場合の局発周波数である89.3MHz付近を見てみましたが信号はありません。
 FMラジオの電源をオンオフすると、これに連動して110.7MHzの信号が断続するし、FMラジオの同調ダイアルを動かすと、SDR Touch のウォーターフォール画面上の軌跡が左右に移動するので、これに間違いないようです。
 ということは、このFMラジオは上側ヘテロダインを採用していることになります。
 日本で販売されているFMラジオは一般に下側ヘテロダインなので、このFMラジオは例外ということでしょうか?

 SDR用のアンテナは室外ですが、撮影用にFMラジオとタブレットを隣接させているので、FMラジオとSDR用チューナが非常に近いためか、結構な強さで受信されます。
 FMラジオをSDR用チューナから約4m(SDR用アンテナからは約5m)離してみたところ、信号は弱くなりますが、SDR Touchのウォーターフォール画面で軌跡が確認できる程度の信号強度はあります。

Fm_radio_5m_from_sdr_ant

Fm_radio_leakage_local_osc_signal_5

 110.7MHzということは、VORの帯域の中に入っています。

 昔々は、機内でのラジオの使用が常時禁止されていましたが、その後に巡航中は使用可能となり、現在は常時使用可能となっています。
  現在の機材は、”裏口結合”の対策が十分行われているということでしょうか?

  計器障害を及ぼすおそれのある使用制限電子機器
  平成19年8月
  http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha07/12/120928/01.pdf

  電子機器の使用制限緩和概要(区分一の航空機内のケース)
  (※H26.9.1から施行)
  http://www.mlit.go.jp/common/001050247.pdf

 日本の航空会社で受信機の使用がOKなら、既に制限緩和済の米国の航空会社でも当然OKだろうと思ってしまいますが、航空会社によって扱いが異なっているようです。
 たとえば、ユナイテッド航空やアメリカン航空では、制限緩和後の現在でも受信機の使用が常時禁止されているようです。

 ◎ユナイテッド航空
  機内への電子機器類の持ち込み
  https://www.united.com/web/ja-JP/content/travel/baggage/devices.aspx
  上記URLから抜粋引用
  *****************************************
  お使いいただけない機器類:
  ・電池式の個人用空気清浄機
  ・テレビ
  ・ラジオの受信機や送信機(AM/FM/SW、CB、スキャナーを含む)
  ・無線操縦玩具などの無線通信機能を持つ玩具など
  *****************************************

  「ポケットベルは、メッセージ受信には常時お使いいただけます。」と書いてありますが、受信機とポケベルがどう違うのかよくわかりません。ポケベルは局発周波数が固定で既知なので対策済とか? あるいは周波数自体の問題? あるいはポケベルの局発信号のレベルが普通の受信機(テレビ、ラジオ等)に比べて低いとか?

 ◎アメリカン航空
  電子機器、医療機器
  http://www.americanairlines.jp/intl/jp/travelInformation/carryOn.jsp
  上記URLから抜粋引用
  *****************************************
  ・機内で使用できない機器
    アメリカン航空が設置している以外の携帯電話
    ラジオ(AM、FM、VHF)、テレビ受信機(電池式またはコード式)、テレビカメラ
    機内に設置されている以外の電子ゲーム機またはリモコン付玩具
    コンピュータのコードレスマウス
    携帯GPS(全地球測位システム)
  *****************************************

  この記載から判断すると、アメリカン航空ではポケベルはNGのような感じがしますが、正確なことはよくわかりません。
  テレビカメラは意図的に電磁波を送信するものではないと思いますますが、内部にカラーサブキャリア発生用のCW発振回路(3.58MHz等)を含んでいるのでNGということでしょうか?
  持ち込みの電子ゲーム機もNGです。
  GPSは明示的に禁止されているので、趣味のログ取りはできないようです。残念・・・
  全体的にかなり制限が厳しいですね。

 結局のところ、利用する航空会社や機材(Wi-Fi対応か否か)に応じて個別に確認するしかないようです。

【参考】
 超短波全方向式無線標識 - Wikipedia
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B6%85%E7%9F%AD%E6%B3%A2%E5%85%A8%E6%96%B9%E5%90%91%E5%BC%8F%E7%84%A1%E7%B7%9A%E6%A8%99%E8%AD%98

 VHF omnidirectional range
 http://en.wikipedia.org/wiki/VHF_omnidirectional_range

 VOR/DME等の概要
 http://www.mlit.go.jp/koku/15_bf_000399.html

 航空無線航行業務に使用する電波の型式及び周波数等
 http://www2.arib.or.jp/johomem/pdf/2002/2002_0204.pdf

 VHF Usage
 http://en.wikipedia.org/wiki/Very_high_frequency#mediaviewer/File:VHF_Usage.svg

 テレビ周波数チャンネル - Wikipedia
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%93%E5%91%A8%E6%B3%A2%E6%95%B0%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%8D%E3%83%AB

 Television channel frequencies
 http://en.wikipedia.org/wiki/Television_channel_frequencies

 FM broadcast band - Wikipedia, the free encyclopedia
 http://en.wikipedia.org/wiki/FM_broadcast_band

 Super-heterodyne FM Receiver Design and Simulation - MIT
 http://web.mit.edu/~bdaya/www/Super-heterodyne%20FM%20Receiver%20Design%20and%20Simulation.pdf

  Introduction to Receivers 
http://www.ece.ucsb.edu/Faculty/rodwell/Classes/ece218b/notes/Introduction_to_Receivers_w11.pdf

 電子機器から発射される電波に対する航空機の耐性評価方法
 http://www.mlit.go.jp/common/001031526.pdf
 玄関結合:航空機搭載アンテナと配線を経由して侵入
 裏口結合:機内配線、筐体から侵入

 電磁波干渉と航空機の運航
 http://www.jalcrew.jp/jca/public/safety/pub-emi.htm

 706便事故裁判第12回公判速報
 電磁波干渉(EMI)について
 https://www.jalcrew.jp/jca/news-htm/17/17-261s.htm

 Airlines which OFFICIALLY DO NOT APPROVE the use of GPS receivers at ANY time during flight
 Revised August 2010
 http://gpsinformation.net/airgps/airgps.htm
 (要個別確認)

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投稿: asos prom dress | 2014年11月22日 (土) 00時42分

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