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2015年7月 5日 (日)

SF小説「オービタル・クラウド」を読んで一寸気になった点

 しばらく前のことになりますが、新聞の書評のページを見ていたら「オービタル・クラウド」という文字が目に入りました。
 軌道上(状?)の雲"Orbital Cloud""ということでしょうか?(追記:本文中P268に「軌道の雲」とありました)

 一寸興味をひかれて書評の内容を見てみると、デブリの異常挙動発見に端を発したSF小説のようです。
 いつもは書評で面白そうな本を見かけても、単に面白そうという段階で終わっていたのですが、日本SF大賞をとった小説のようなので、どんな本なのかと思ってAmazonでレビューを見てみました。
 非常に面白かったというレビューが多いのですが、「象の檻」とか「25KW」とかいう単語が出てきて「致命的なミスがある」と書いてあるレビューがありました。
 レビューの内容だけでは、何が「致命的なミス」なのか判りません。

 どこが問題なのか確認したいという素人無銭家の好奇心に負けて数十年ぶりにSFを買いました。
 大昔はSFマガジンを毎月読んでいましたが・・・

【オービタル・クラウド】
Photo

  とりあえず殆ど予備知識のない状態で一通り読んでみました。
 ところどころ引っ掛かるところはありますが、新しい「仕掛け」が出てくるたびに、「ヘー そうなの」という感じで読み進みました。

 読書の目的である「致命的なミス」についてですが、現在(2015)の技術では一寸無理があるのではないかという印象でした。
 しかしながらこの小説の時代設定は2020年なので、技術の進歩を考慮する必要があります。

 ということで、まず基礎知識を仕入れてから、もう一度読み直すことにしました。

 なお、読んだのは、以下の本です。

「オービタル・クラウド 」2014/2/25発行、2015/3/15再版、藤井太洋 著、早川書房出版 ISBN978-4152094445-5 C0093

 この小説の中心になるのは導電性テザーですが、基礎知識がないので、とりあえず調べてみました。

  テザー推進 - Wikipedia
  https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%82%B6%E3%83%BC%E6%8E%A8%E9%80%B2

  JAXA
  導電性テザー(EDT)
  http://www.ard.jaxa.jp/research/mitou/mit-edt.html

    宇宙航空研究開発機構
  HTV搭載導電性テザー実証実験 の検討状況について
    平成25(2013)年9月4日
  http://www.jaxa.jp/press/2013/09/20130904_htv_j.pdf

  International Space Station
  Electrodynamic Tether Reboost Study
  http://ntrs.nasa.gov/archive/nasa/casi.ntrs.nasa.gov/19980223479.pdf

  Space Transportation with a Twist
  http://www.nasa.gov/vision/universe/roboticexplorers/tethered_spacecraft.html

  Electrodynamic tether - Wikipedia, the free encyclopedia
  https://en.wikipedia.org/wiki/Electrodynamic_tether

  Space tether missions - Wikipedia, the free encyclopedia
  https://en.wikipedia.org/wiki/Space_tether_missions

 なんとなくイメージは湧いてきました。

 実際のテザー実験はどうなっているのかと思って調べてみると、結構各国で実験が行われているようです。

  プラズマ・核融合学会誌第72巻第1号 1996年1月  
  テザー衛星実験
  http://jasosx.ils.uec.ac.jp/JSPF/JSPF_TEXT/jspf1996/jspf1996_01/jspf1996_01-48.pdf

  Space tether missions - Wikipedia, the free encyclopedia
  https://en.wikipedia.org/wiki/Space_tether_missions

   PMG(1993, Plasma Motor Generator)の説明では、"The total experiment lasted approximately seven hours. In that time, the results demonstrated that current is fully reversible, and therefore was capable of operating in power generator and orbit boosting modes. "と書いてあります。これは、確認できたのは双方向電流通過だけで、発電と推進については可能性を示したというレベルなのでしょうか?
  YES2(2007, Young Engineers' Satellite 2)については、"deployment telemetry indicated that the tether deployed to full length and that the capsule presumably deorbited as planned."と書いてあります。32kmのテザーによるカプセルの引き降ろしに成功した?
  Space debris removal missionsの項目のところに、この小説と関係ありそうなJAXAの話が出てきます。

    STS-75 - Wikipedia
    https://ja.wikipedia.org/wiki/STS-75

 Wikiをざっと読んでみましたが、実際にどこまで実現できているのかよくわかりません。

 NASAの資料があったのでこれも一寸覗いてみました。

   The Space Tether Experiment - ISTP
   http://www-istp.gsfc.nasa.gov/Education/wtether.html

  テザーによる発電と推進について書いてあります。
  1996の実験ではテザーを20kmまで伸ばしたけれども、テザー伸延時に発生した絶縁層のピンホールが原因と思われる放電(3500V, 1A ?)によりテザーが破損したみたいです。

     TSS-1R tether composition
     https://en.wikipedia.org/wiki/File:TSS-1R_tether_composition.png

 以下の資料はNASAのものではありませんが、かなり詳しく説明されています。
 UFOの話が出てくるのが一寸怪しいですが・・・

  Energy Projects
  Electrodynamic Tether
  http://www.thelivingmoon.com/41pegasus/02files/Electrodynamic.html

 

 以下のような書き込みもありました。
  
  tether de-orbit experiment fails - Google Groups
  9/26/07
  https://groups.google.com/forum/#!topic/sci.space.history/o4wZYUbXyMw

  以下の資料を見ると、2007年の時点で「導電性テザー推進として推力が確認されたことはなく」ということのようです。

  「低推力・連続加速を用いた宇宙ミッションに関する研究会」
  2007年11月2日(金)
  http://www.isas.jaxa.jp/j/researchers/symp/2007/1102_low.shtml

  導電性テザーのダイナミクスとその応用例について
  https://repository.exst.jaxa.jp/dspace/bitstream/a-is/54659/1/63739010.pdf

  簡単に調べただけですが、テザー推進の実験もある程度行われており、全くの夢物語という訳ではないようです。

 これでやっと本の内容を再確認する準備が出来ました。
 以下、自分の興味を引いた箇所をピックアップしました。
 読書の目的が「致命的なミス」の確認という不純な動機なので、普通の読書感想文的な部分はほとんどありません。あしからず。
  この記事の内容の性質上、「重箱の隅」、「枝葉末節」、「些細な事項」的な記載が多いですが、ご容赦の程お願いします。
 SFはFictionなので何でも有りというのは承知していますが・・・

 素人の好奇心で書き飛ばしているので、見当はずれな部分が多々あると思います。

  

--- P10 ---(2015.07.12追加/修正)
「実験機 #42」
  プロローグの記載だけではあまりイメージが湧きませんでしたが、本文(P318)を読んだらかなり様子が判ってきました。
  
  テザー:長さ20m(?)の針金
  終端装置(電子銃、プラズマコンタクタ、電流エミッタ、電流コレクタ):?
  センサ:スマホを流用?
  テレメトリデータ:座標、ベクトル
  データ形式:8ビットシリアル(チェックデジットを含む)
  デーア変調形式:AFSK?  (小説ではビープ音となっているので違うかも・・)
  搬送波周波数:中波?
  搬送波変調方式:AM
  アンテナ:不明
  電子回路:テザー給電用、(テレメータも?)
  電池:単三(電源電圧?) 
    場所:テヘラン郊外
    到達高度:30km(気球破裂後自由落下)
  
  受信機:ラジカセ(AMラジカセ?)
  テレメトリデータデコード:AFSK聴取?+指レジスタ?+脳内デコード?

  43(10進数)=101011(2進数)・・・P318の例

     00001    01011 (LSB)
   左  親人中薬子 子薬中人親 右

  1:立てた指
  0:折った指

Counting 1 to 31 with Binary Fingers

 テザー実験の話の中で、よく理解できない点が幾つか・・・

  ・ラジオの入手容易性からAM(中波?)を選択したという話になっていますが、単三電池で動作する中波のAM送信機(電源電圧は不明ですが・・・)で30km飛ばすのはかなり困難のように思われます。
 中波AM送信機は、部品(変調トランス等)がFMより多いのでコストが高くなるし、変調のために電力を食うし、アンテナが大きくなるし、アンテナで利得を稼ぐことは難しいし、等の不都合があります。
 FM放送が始まる前は、個人レベルが使えるワイヤレスマイクはAM(中波)のものしかなかったので、作ったことがありますが、FMに比べて多くの費用と工数が必要で、しかも電波は余り飛びません。
  現時点(2015年)でのイランのFM放送局を調べてみると結構あるようなので、プロローグの時点で多分AM/FMラジカセが容易に入手できるような気がします。

  Home >> Asia >> Iran >> Radio Station Websites
  http://radiostationworld.com/locations/iran/radio_websites.asp

 もし、AM/FMラジカセが利用できるのであれば、FMを使った方がメリット(安い、簡単、飛ぶ)が大きいように思われます。

 軍用無線機が入手できる環境であれば、業務用/アマチュア無線用VHF/UHFトランシーバを改造する手もあります。
 もっと手を抜くのであれば、費用と入手容易性の問題はありますが、以下のような製品を使えば、超低速の「指デコード」をせずに座標、高度が確認できます。

  Pro’s Picks: Garmin Alpha Dog Tracking GPS and Trainer
  Posted on 27 February 2014.
  https://www.sportsmansnews.com/2014/02/pros-picks-garmin-alpha-dog-tracking-gps-and-trainer/

  Vaisala Radiosonde RS92-SGP
  http://www.vaisala.com/Vaisala%20Documents/Brochures%20and%20Datasheets/RS92SGP-Datasheet-B210358EN-F-LOW.pdf

 ・終端装置(電子銃、プラズマコンタクタ、電流エミッタ、電流コレクタ)はテザー以上に重要な部品だと思われますが、詳細がよく判りません。タッパウエアの中?

 ・高度30kmからテザーを落下させて、座標データ等からローレンツ力を確認するようになっていますが、高度30kmでは風の影響が無視できないように思われるのですが、どうでしょうか? 
 下記の資料によれば、30kmから20kmに降下後にかなり東に流されています。

  気象庁高層気象観測のラジオゾンデ飛行軌跡予測
  http://n-kishou.com/corp/service/observation/observation_sonde/

 風力の方がローレンツ力より大きいような気が・・・(単なる想像です)

 ・気球破裂後が「実験の本番」となっていますが、理由がよく判りません。
 テザーによる発電の実験であれば、e=Blvsinθから、速度vが速くなると電圧eが高くなるので観測しやすいということがあります。
 しかしローレンツ力を観測する場合に、テザーをテザーの伸延方向に高速で移動させることにどのような意味があるのか判りません。
  (2015.7.20追記:起電力を駆動電流として利用する?)
 
 ・高度30kmからの自由落下ということになると相当な速さで落下することになると思いますが、「指デコード」できる程度の非常に遅いビットレートでは、データの更新が遅すぎて測定精度が下がるのでは?
 「ピッピッ」の音を聞いて指を立てるのであれば、ビットレートはあまり高くできないと思います。
 たとえば、「ピッピッ」の間隔が1秒で、「ピッ」が1ビットに対応するのであれば、8ビット(1ワード?)送るのに8秒もかかってしまいます。
  座標、ベクトルのデータを高精度で伝送しようとすると、1箇所の測定データを送信するだけで相当な時間を必要となるのでは?
 データロガーに記録して落下気球をビーコンで探して回収するという手もありますが、小説のシチュエーションでは多分無理でしょう。

 ・GPSデータ(NMEA等)を8ビットシリアルデータに変換し、AFSK信号(?)に変換し、中波の搬送波を振幅変調できるスキルがあるのであれば、AFSKのデコーダを作ることができるような気が・・・(2015年の時点では可聴帯域用のモデム用の部品はもう入手困難?)

 ・気球が上昇中は、下側のタッパは上側のタッパからテザー(針金)で吊り下げられているので、テザーには張力が加わっており、テザーに発生したローレンツ力はタッパに伝わって推進力となると思われますが、気球が破裂して自由落下状態になると、張力が開放されてテザーが緩んで不味いのでは?

 話は大きく脱線しますが、高度30kmからiPadから落下させた動画がありました。
 イメージとしてはこんな感じでしょうか?

  iPad Survives 100,000+ Foot Fall From Space Near Area 51 (High-Res)
  https://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=X4xNcF6T7Is

--- P125(x2), P158 ---
「ケプラー(Kepler?)繊維」→「ケブラー(Kevlar)繊維」

--- P129 ---
「持続的スペース・テザーの概要と実証実験」
 自分でも実験できそうなので試してみました。

 小説記載の材料(東急ハンズで購入という設定)
 (1)マグネットシート
 (2)30cm銅棒 2本
 (3)スイッチ付き電池ボックス
 (4)アクリル板
 (5)両面テープ
 (6)縫い針

 自分の実験では若干材料を変更しました。
 (2),(4),(5) → Nゲージのレール
  (3)  → ヒータトランス(6.3V 2A)+ダイオードブリッジ

  マグネットシートはレールの道床の裏に貼りました。
 レールの上に縫い針を置いて、レール間に電圧を印加してしましたが、縫い針は一瞬動くだけで、転がりません。
 接触が悪いのかと思って縫い針の位置を変えてみましたが状況は変わりません。
 電圧を加えた状態で縫い針を触ってみるとかなり熱いです。縫い針には通電されているようです。
 通電状態で縫い針を指で転がそうとすると、指先に抵抗力が感じられます。
 指で転がし続けると抵抗力が波状に変化します。
 また、抵抗力が一番強い箇所で縫い針を持ち上げようとすると吸引力が感じられます。
 針の代わりに小さな円板状の磁石を、一方の極がレールの道床の面に対向するように指で持って、レールに沿って移動させると、吸引力と反発力が交互に感じられます。
 この状況から判断すると、マグネットシートの面の極性は一定ではなく、一定間隔で反転しているようです。
 いままでは、マグネットシートの一方の面がNで、他方の面がSであると思い込んでいましたが、違うようです。
 当方が購入したのは、100円ショップで購入した「マグネット・バンド」というものですが、着磁構造が特殊なのでしょうか?

【マグネット・バンド】
Photo
 念のために調べてみたら、どうも一面にNSが交互に配置されている「片面多極着磁」が一般的で、一方の面がNで他方の面がSの「両面着磁」は特殊なもののようです。

  マグネットシート(着磁の種類)について
   http://sk-shinkyo.co.jp/%E3%83%9E%E3%82%B0%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%88%EF%BC%88%E7%9D%80%E7%A3%81%E3%81%AE%E7%A8%AE%E9%A1%9E%EF%BC%89%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/

 シート状のものは着磁状態が判断し難いので、これに代えて極性が判断しやすい円板状の磁石(100円ショップで購入)を使用することにしました。

【超強力マグネット 4P】
Photo_2
 今度は、レールの道床の裏に円板状の磁石を貼って同様に実験してみましたが、余り状況は変わりません。
 念のために電圧を加えない状態で縫い針を転がしてみると、通電時と同様に抵抗があります。
 どうも縫い針が磁石で吸引されているようです。
 調べてみると、縫い針の材質は鋼線材のようなので磁性体です。

    JIS S 3008:1981 手縫針
    http://kikakurui.com/s/S3008-1981-01.html

 発生したローレンツ力よりも磁石による吸引力の方が強かったために転がることが出来なかったのかもしれません。
 もしこの仮説が正しいのであれば、テザー(プロジェクタイル? ショートバー?)を非磁性体にすれば問題は解決するはずです。

 というころで、縫い針の代わりに3mmφのアルミ棒を使ってみました。

 やっと動きました。

 小説の中にも出てきますが、永久磁石の部分を除けばレール・ガンの原理にかなり近いです。

【スペース・テザー実証実験?】
Setup

 
  老体に鞭打ってここまで書いてきましたが、疲れてきたので、今日はこれで休憩です。

    ・・・ つづく ・・・ (いつのことになるやら・・・)

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