無電源クロスバンド送信機
Gigazineを見ていたら一寸面白そうな記事がありました。
2016年11月08日 06時00分00秒
どうやってソビエト連邦の子どもの贈り物が7年間もアメリカ大使を盗聴できたのか?
http://gigazine.net/news/20161108-soviet-bug-for-7-years/
記事によれば、「電源・バッテリー・ケーブルなどを使わずに音波を無線信号で飛ばす」とのことです。
どのような仕組みになっているのかと思っていたら、以下のような記載がありました。
「アンテナとシリンダーにマイクとして機能する薄膜を備えた盗聴器。無線信号の周波数を合わせることで盗聴を開始でき、離れた場所から無線受信機で室内の会話を聴き取ることができたとのこと。」
この説明だとよく分かりません。
「無線信号の周波数を合わせることで盗聴を開始」という説明だと、受信機の同調ダイヤルを回しながら、装置から送信される電波の周波数に合わせるようなイメージしか浮かびません。
ソース記事を見てみました。
今年の6月の記事のようです。
Atlas Obscura
How a Gift from School children Let the Soviets Spy on the U.S. for 7 Years
June 21, 2016
http://www.atlasobscura.com/articles/how-a-gift-from-schoolchildren-let-the-soviets-spy-on-the-us-for-7-years
仕組みに関係しそうな以下の記載がありました。
The device he came up with consisted of an antenna and a cylinder with a thin membrane that acted as a microphone. Soviet agents stationed across the street from Spaso House would turn the device “on” by focusing a radio signal on it, which then bounced back to their radio receiver. When the ambassador or anyone else in the study spoke, the sound waves caused the membrane to resonate and alter the signal that returned to the Soviets, allowing them to hear the conversation.
“The triumph of the Great Seal Bug was its simplicity,” said Robert Brown in his book on early technical surveillance, Electronic Invasion. “It had no power pack of its own, no wires that could be discovered, no batteries to wear out,” and was active only when the Soviets “illuminated” it with a radio signal, making it nearly impossible to detect.
ソース記事には周波数の話は見当たりません。
上の記事にある"focusing"は、周波数を合わせるという意味よりも、文字通り焦点を合わせる(ビームを向ける)という意味であるように思われます。
記事全部を読んでみるとなんとなく判ってきました。
推測(妄想)ですが、以下のような動作をしているように思われます。
・エージェントは装置に対してビームを絞って電波を照射する。
・装置は、音声により電波(搬送波)を変調して送り返す。
・エージェントは装置からの変調された電波を受信する。
装置の具体的な構造がよく判らないので調べてみました。
"The Thing"で検索したらかなり細かいところまで判りました。
The Thing (listening device)
https://en.wikipedia.org/wiki/The_Thing_(listening_device)
Theremin’s Bug: How the Soviet Union Spied on the US Embassy for 7 Years
December 8, 2015
http://hackaday.com/2015/12/08/theremins-bug/
(ソースが不明ですが図面はこちらの方が判り易いです)
上記の記事から興味を惹かれた点をピックアップしてみました。
・基本的原理(resonant cavity microphone)は、US2,238,117に類似。
【US2238117】
【The Thing】(図面は上記Hackadayから抜粋引用)
The Thingは、
・電子楽器で知られるテルミン氏が設計。
・キャビティは高Q共振回路を構成。
・キャビティの一部がコンデンサマイクのダイアフラム(メンブレン)を構成。
・キャビティはアンテナの負荷として機能。
・アンテナには外部から電波を照射。
・キャビティは2倍の周波数で共振。
・アンテナから2次高調波を輻射。
・ダイアフラムの振動でキャビティの共振周波数が変化。
・アンテナの負荷インピーダンス(リアクタンンス)が変化。
・アンテナから輻射される2次高調波の振幅と周波数(位相?)が変調される。
Wikipediaの記事では周波数(330MHz, 800MHz, 1800MHz)の関係がよく判りませんが、Hackadayの記事では、以下のように書いてあります。
"According to Peter Wright, the excitation frequency used by the Russians was actually 800 MHz. The cavity would resonate at a multiple of this base frequency, producing the 1.6 GHz output seen by Bezjian."
キャビティが周波数ダブラとして機能? 周波数ダブラは、普通は高調波を発生させるために非線形素子(動作)で正弦波を歪ませますが、この装置の場合は歪み成分はどこから発生したのでしょうか? 励起電波自体が歪んでいた?
構造を見ると、非常に巧妙な設計をしているように思われます。
特にキャビティで逓倍して受信周波数と送信周波数を異ならせる点(クロスバンド?)に感心しました。
Wikipediaにも"it is considered a predecessor of RFID technology"と書いてありますが、この装置はRFIDの先祖かもしれません。IDはありませんが・・・
無電源で変調を掛けて送信する技術としては、現在では負荷変調とバックスキャッタを組み合わせたパッシブ型RFIDがありますが、これに類似した技術だったようです。
「負荷変調」や「バックスキャッタ」をキーワードにして調べてみたら、関係がありそうな以下の公開特許がありました。
特開2012-225819 振動センサおよび振動検知装置
明細書中には、以下のような記載があります。
「バックスキャッタ方式により振動を検知する振動センサおよびそれを用いた振動検知装置」
「振動センサ部14とアンテナ13とから構成され、振動センサ部14は、基板2と、支持部8と、支持部8に一端を固定された片持ち梁1と、基板2上に設置された下部電極3と、下部電極3に対向して片持ち梁1の先端部に設けられた上部電極4とを有し、下部電極3と上部電極4はアンテナ13に接続され、外部より印加された振動により片持ち梁1が振動することにより、上部電極4と下部電極3間の静電容量が変化し、これによりアンテナ13へ入力される外部からの送信波の反射波が前記振動により変調されるように構成されている。」
上記の説明は、図1の実施例(片持ち梁)についてのものですが、図5の実施例(両持ち梁)の方が、件(くだん)の装置に近いかもしれません。
上部電極54が"thin membrane"に対応すると考えると、理屈は合います。
コンデンサマイクロホンの電極間容量を直接アンテナの負荷にして変調をかけているというイメージでしょうか?
話は少し飛びますが、大昔にやったことがあるゲルマラジオを使った送信実験を思い出しました。
五球スーパーとゲルマラジオで同じ放送局(同じ周波数)を受信し、ゲルマラジオのクリスタルイヤホンを指で弾くと、五球スーパーからコツコツという音がしました。
無電源で電波を飛ばすという点では一寸似ているかも・・・
【参考外部リンク】
CirQ 004
Jul. 2004
http://www.fcz-lab.com/CIRQ-004.pdf
CirQ 004-10
4. ゲルマラジオが送信機になる? (4)
(リンク切れ)
(代替リンク)
Yahoo! JAPAN 知恵袋
鉱石ラジオが送信機になる件の真偽は?
2018/9/3022:01:02
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10196941445
| 固定リンク
「ニュース」カテゴリの記事
- 中国のバレンタイン用ドローンショー(2022.02.16)
- 「ハバナ症候群」は大部分が持病やストレスが原因?(2022.01.31)
- 日本人月面へ(2021.12.29)
- 祝「カーク船長」宇宙から帰還(2021.10.14)
- 「カーク船長」宇宙へ(2021.10.07)
「無線」カテゴリの記事
- MRI検査受診時の熱感の原因は?(2021.11.15)
- レーダー用マイクロ波で溶けたのはチョコバーではなくpeanut butter candy barだった?(2021.08.26)
- Intel Drone Light Show Premiumの費用と仕様(2021.07.26)
- 電波法第59条の「傍受」が狭く解釈された判例(2021.07.24)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント