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2020年12月 8日 (火)

一部の労働者は電波が聞こえる?

  「マイクロ波聴覚効果」の関連ネタです。
 
 トンデモ系の話は嫌いではないので、「マイクロ波聴覚効果」の Wikipediaを見ていたら、意味が不明な部分がありました。
 説明の中に、「パルスマイクロ波放射は、一部の労働者が聞くことができる。」という記載(2020/12/08現在)があるのですが、「一部の労働者」とは誰のことでしょうか?
  後続する文「マイクロ波を照射された被験者は、クリック音やブザーのようなうなり音が聞こえることに気づく。」の中に「被験者」という言葉が出てくるのですが、「労働者」が「被験者」に対応しているとは考えにくいです。
 
 英文を見てみました。
 
  Microwave auditory effect - Wikipedia
 
 原文では以下のようになっています。
  "Auditory sensations of clicking or buzzing have been reported by some workers at modern-day microwave transmitting sites that emit pulsed microwave radiation."
【DeepL翻訳】パルス状のマイクロ波を放射する現代のマイクロ波送信サイトでは、クリック感やブザー音の聴覚が何人かの作業員によって報告されている。
 
  この説明であれば意味が明瞭です。
 パルス状のマイクロ波に曝される職場はかなり特殊であり、まず連想するのはレーダーサイトです。”sites”という単語からも連想されます。
 "some workers"は、レーダーサイトのような場所で働いている作業者(作業員)の中の一部の人を意味していると考えられます。
  また、 "some workers"は、所定の環境が設定された場所での実験に参加した訳ではなく、仕事中に偶然体験した特異な事象を報告したということだと思われるので、「被験者」とは呼べないような気がします。
 
 
 
 
【余談】
 アイ・ラブ・ルーシーのルシル・ボール(Lucille Ball)氏は、「電波が聞こえる一部の労働者」だった?!
 
 以前、好奇心で人間受信機(人体で直接電波を受信する)を調べたときにルシル・ボール氏の 話を知りました。
 
      Did Lucille Ball Use Her Fillings to Spy?
 
  Lucille Ball’s Fillings
  Did radio transmissions picked up by Lucille Ball's fillings lead to the capture of a Japanese spy?
 
  HOW LUCILLE BALL HEARD SPIES THROUGH HER DENTAL FILLINGS
 
 
 ざっと読んでみると、日本のスパイのモールスを虫歯の詰め物で受信したので通報したというような話です。
 にわかには信じがたい話ですが、本人の著書には関連する記載があるようです。
 ただし、信頼できるような証拠はないみたいです。
 当時、本人は要注意人物と見られていたので、愛国心をアピールするためにそのような話を創作したのではないかというコメントもありました。
 原理的な話としては、放送局などの高出力のAM信号の場合には、体の中に電気的な非線形特性を有する部分(ex.詰め物)があれば、振幅成分を抽出できるかもしれません。
 なお、「マイクロ波聴覚効果」は、体内組織の熱膨張により発生する圧力波が原因のようなので、非線形特性による信号発生とは別のメカニズムです。
 
 
【2020.12.09追記】
 Lucille Ball氏の話の内容が気になったので、しつこく調べてみました。
 下記の記事の中には、彼女の話の内容が記載されています。
 
  Lucille Ball’s Fillings
 
"All of a sudden, my mouth started jumping. It wasn’t music this time, it was Morse code. It started softly, and then de-de-de-de-de-de. As soon as it started fading, I stopped the car and then started backing up until it was coming in full strength. DE-DE-DE-DE-DE-DE DE-DE-DE-DE! I tell you, I got the hell out of there real quick. The next day I told the MGM Security Office about it, and they called the FBI or something, and sure enough, they found an underground Japanese radio station. It was somebody’s gardener, but sure enough, they were spies."
 
  状況は判りましたが違和感があります。
 "de-de-de-de-de-de"の部分が引っ掛かります。
 
 日本では、実際にはピピー(・ー)と聞こえる"A"のモールス符号を、会話や文章ではトツー(トンツー)と表現することが多いです。(正弦波のイメージ?) 
 
 一方米国では、下記の資料によれば、"A"は DiDaと表現されるようです。(ブザー音のイメージ?)
 
   Morse code 
 
 Diが短点(dot)でDaが長点(dash)になります。
 DEとDiは発音が似ているので、例えば、DE-DE-DE-DE(音的にはピピピピ)は、通常であれば"H"を意味することになります。
 スパイが普通のモールス符号を使って平文で送信することは考えられませんが、彼女の話を聞くとモールス符号のような信号が聞こえたという話は筋が通っているように聞こえます。
 しかしながら、通常の無線電信は、一定振幅の搬送波を断続してモールス信号を発生させているので、受信した信号を振幅検波しても、コツコツというクリック音しか聞こえません。場合によっては、ポコポコという音になることもあります。
 
 ところが、彼女の話では、DE-DE-DE-DEというようなブザー音的な音が聞こえたことになっています。
 映画やテレビの電信のシーンでは、ピーピーという可聴周波数の音が聞こえてきますが、アンテナで受信したモールス信号を振幅検波しただけでは、ピーピーという音は出力されません。
 この可聴音を発生させるためには、受信側にBFO(Beat Frequency Oscillator)やトーンキーヤー(Tone Keyer)を設ける必要があります。
  したがって、詰め物による振幅検波を想定すると、搬送波が音声信号で振幅変調されるAM放送局の音楽が聞こえても不思議ではありませんが、搬送波がパルス的に断続されるモールス信号を受信してDE-DE-DE-DE(音的にはピピピピ)という音が聞こえることは考えにくいです。
 ここから先は全くの想像ですが、電信の信号を可聴音化するためにはBFOやトーンキーヤーが必要であることを知らずに、モールス信号を受信すれば、映画やテレビで聞くのと同様な音が聞こえる筈だと想像してDE-DE-DE-DEという表現をしたのかもしれません。
 もし実際にクリック音を聞いていれば、DE-DE-DE-DEという表現にはならないような気がします。
  ただし、A電波ではなく、B電波を使用したモールス信号を受信したと仮定すると、DE-DE-DE-DEという音が聞こえたという話は筋が通るかもしれません。送信機の近所はノイズだらけになりますが・・・
 個人的には、この話は都市伝説的であるような気がします。
 
[JJYモールスの検波出力]
2011年5月18日 (水)
JJY(40kHz)検波出力モニタ用電波時計
 
[トーンキーヤーを使用したJJYモールス出力]
2017年1月18日 (水)
JJY用トーンキーヤーにTCO表示用LEDを追加
 
[BFOを使用したJJYモールス出力]
2018年12月22日 (土)
ハワイでJJYのモールスを受信
【2020.12.17追記】
 Lucille Ball氏が、インタビューでモールスの話(03:15~04:00)をしている下記の動画がありました。
 
  Dick Cavett - Lucille Ball fillings
 
 話を声で聞くと、"DE-DE-DE-DE"という文字で表現された音は、必ずしもブザー的な音ではなく、神経への刺激や筋肉の痙攣を表現しているようにも思えます。
 
 事実はどうだったのかは、依然判りませんが・・・

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