電波法第59条の「傍受」が狭く解釈された判例
この暑さの中を都心まで出かける元気がなかったので、東京オリンピック2020のブルーインパルス展示飛行を見ることはできませんでした。
仕方がないので、YouTubeで動画を探していたら交信音入りの動画が公開されていました。
電波法第59条はどうなのでしょうか?
自分の無線局免許状にも注記があるので一寸気になります。
電波法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000131
(秘密の保護)
第五十九条 何人も法律に別段の定めがある場合を除くほか、特定の相手方に対して行われる無線通信(電気通信事業法第四条第一項又は第百六十四条第三項の通信であるものを除く。第百九条並びに第百九条の二第二項及び第三項において同じ。)を傍受してその存在若しくは内容を漏らし、又はこれを窃用してはならない。
第百九条 無線局の取扱中に係る無線通信の秘密を漏らし、又は窃用した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
ネット上には色々な情報が書かれていますが、この種の判断は微妙なことが多いので、公的資格を有する人のコメントを参照した方が安全です。
官公庁の判断であっても裁判でひっくり返されることがあります。
弁護士さんの意見を探していたら、以下の記事を見かけました。有料記事ですが部分的に「回答 1 件 無線は違法ですね。」と表示されました。
弁護士ドットコム>インターネット
航空無線こ動画公開は違法?
2020/07/03 — 弁護士から回答有。航空無線こ動画公開は違法? 動画共有サービスなどで、傍受した航空 無線のATC(航空交通管制)を公開することは違法でしょうか。
回答 1 件 無線は違法ですね。
https://www.google.com/search?q=%E8%88%AA%E7%A9%BA%E7%84%A1%E7%B7%9A+%E5%85%AC%E9%96%8B+%E9%81%95%E6%B3%95+%E5%BC%81%E8%AD%B7%E5%A3%AB&oq=%E8%88%AA%E7%A9%BA%E7%84%A1%E7%B7%9A%E3%80%80%E5%85%AC%E9%96%8B%E3%80%80%E9%81%95%E6%B3%95%E3%80%80%E5%BC%81%E8%AD%B7%E5%A3%AB&aqs=chrome..69i57j69i61.530j0j4&sourceid=chrome&ie=UTF-8
条文を普通に文言通りに解釈すると、航空無線の動画公開はアウトのように思われますが、文言の解釈次第ではセーフになることもあるのでしょうか?
下記の東京高裁昭五二年(う)第四一六号は、電波法第百九条第一項に関するものですが、普通の感覚では単なる「傍受」と思われる行為が「秘密漏洩」と判断された例です。
【(02)】判例タイムズ No.361 (抜粋)】
判例タイムズ 361号 (1978年07月15日発売)
https://www.hanta.co.jp/books/5396/
内容を超簡単化すると以下の通りです。(厳密さに欠けています)
・A,B,C,Dの4人が、特定の相手方に対して行われる無線通信を共同聴取した。
・A,Bは、受信機の購入、使用等への関与が大きいので、傍受者と判断された。
・C,Dは、受信機の購入に同行したが、デザイン等について口を出しただけであり主体的でないため、傍受者ではないと判断された。
・その結果、傍受者であるA,Bは、傍受した通信の内容を、傍受者でないC,Dに漏らしたと判断された。(A,Bに対して「傍受」and「漏らし」が成立)
同じ内容を共同で聞いた場合でも、聞いた人間の属性によって「傍受」であるか否かが判断されるというのは、趣味レベルで無線を受信している当方にとっては、一寸意外な論理展開でした。
昔の判例であり、また、最終的な判断がどのようになったのかは確認していませんが、このような判断が行われることがあるというのは興味深かったです。判例タイムズでも「興味ある事例」となっていました。
航空無線の動画公開について、現時点の判断について少し調べてみましたが、どうも明確な判断は出されていないようです。
個人的には限りなく黒に近いグレーのような気がしますが、最後は裁判にならないと判らないかもしれません。
航空無線ではありませんが、AIS(Automatic Identification System)情報の取扱いに関する記事がありました。
平成 27 年 7 月 31 日
AIS 情報の受信及び利用等の取扱いが明確化されました
https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo-kaitakuseidosuishin/press/150731_press.pdf
「関係省庁で検討が行われた結果、サービスの提供先である海運会社等に所属しない他の船舶のAIS情報を提供する場合であっても、当該情報が既に船舶局間で共有されているものであることから、同法第 59 条の「存在若しくは内容を漏らす」に該当せず、また発信者又は受信者である海運会社等に対し当該AIS情報を提供することは「窃用」にも該当しないと考えられることから、同条の規定に抵触しない旨の回答が行われました。」
内容をざっと見た範囲では、AISの場合は、もともと白に近かったグレーが完全に白になったということのようです。
日本では、「傍受」の範囲内であればOKのようですが、国によっては、エアバンドを受信しただけで逮捕された例もあるようです。
News24.com
Court finds planespotter guilty
2011-08-06 07:54
https://www.news24.com/SouthAfrica/News/Court-finds-planespotter-guilty-20110805
(以下、上記URLから抜粋引用)
---------------------------------
Johannesburg - The Boksburg Magistrate's Court on Friday found planespotter *** guilty of illegally possessing a radio receiver and using it to listen to air traffic communications, the editor of the SA Flyer magazine said.
---------------------------------
一寸調べて見た範囲では、英国系法体制を採用している国では、一般の放送以外で受信できるのは、気象情報程度ということがあるようです。
南アの例は特殊なケースかもしれませんが、場合によってはこのような事もあり得るようです。
また、マレーシアでは、日本バンドのFMラジオやVHFのエアバンド受信機は持ち込み禁止なので要注意です。
DHL
Prohibitions and Restrictions of Imports by MY Customs
https://www.logistics.dhl/content/dam/dhl/local/cn/dhl-ecommerce/documents/pdf/cn-ecommerce-onboarding-import-my-restriction-en.pdf
(以下、上記URLから抜粋引用)
---------------------------------
The following goods are absolutely prohibited from importation:
・Broadcast receivers capable of receiving radio communication within the ranges (68 - 87) MHz and (108- 174) MHz
---------------------------------
いずれにしても、裁判では普通の用語に対して、一般的な解釈とは異なる予想もしないような解釈がされることがあるので、明らかに白でない限りは手を出さない方が安全かもしれません。(「明らかに白」かどうかを判断するのが難しいですが・・・)
| 固定リンク
「無線」カテゴリの記事
- MRI検査受診時の熱感の原因は?(2021.11.15)
- レーダー用マイクロ波で溶けたのはチョコバーではなくpeanut butter candy barだった?(2021.08.26)
- Intel Drone Light Show Premiumの費用と仕様(2021.07.26)
- 電波法第59条の「傍受」が狭く解釈された判例(2021.07.24)
「航空機」カテゴリの記事
- 運が良ければ横田基地「日米友好祭2022」でAF1が見えるかも???(2022.05.21)
- Air Seoulの無着陸高松周回飛行(RS777)(2021.09.12)
- Air Busanの無着陸西九州遊覧飛行(BX1065)(2021.09.11)
- 韓国の「無着陸フライト」の運航予定(2021.08.29)
- 今日の都心上空はヘリが一杯(2021.08.24)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
通信の秘密に関し、最高裁判例では、『同項で保護される無線通信の秘密は、これを私人間の無線通信に限定して解釈すべき根拠はなく、警察無線であっても、その存在及び内容に非公知性及び秘匿の必要性のある場合には、これに当たることが明らかである。』
使用されている周波数は広く知られてない、内容は秘密にすべき内容とされてます
航空祭で使用されている通信は保護される通信には当たらない都考えられます。尚、訓練で非公開の周波数で行われる通信については内容によってはOUTと考えます
東京地方裁判所平成14年3月20日
投稿: 通り過ぎる | 2023年6月 3日 (土) 16時26分